がんのケトン食治療

ケトン食って何?

ケトン食とは、簡単に言うと、「ケトン体を産生するための特別な治療食」です。

 

ごはん・パン・麺類・いも・コーン・かぼちゃなどの炭水化物や、ジュース・菓子類・果物・根菜などに多く含まれる「糖質」の摂取を極端に減らし、かわりに油やバター、ココナッツオイル・MCTオイルなどの油脂類や、肉・魚の脂身、アボカドなどに多く含まれる脂質の摂取割合を大幅に増やすことにより、ケトン体を多く産生することを主な目的とした食事です。

 

古くは紀元前から、てんかんの食事治療としてケトン食が用いられたという記録があります。1990年代に入ってからさらに研究が進み、ケトン体のてんかん発作の抑制作用が明らかになったことで主に小児てんかん難治性てんかんの食事治療として、現代のケトン食へと発展を遂げてきました。

 

日本ではあまり普及していませんが、ケトン食はてんかんの治療食として、欧米では当たり前に認知されています。一定の安全性・有効性が確立されたことで、日本でもてんかんの入院治療にケトン食が保険適応になる(H28~など、治療食としては1つの選択肢として、確立したものです。

 

21世紀に入り、がん細胞がブドウ糖をエネルギー源として増殖しているという研究をドイツの生理学者(ワールブルグ)が発表したことで、がんの治療としてもケトン食が有効なのではないかという研究がアメリカなどで始まりました。(2011~)

 

日本でも2013年よりケトン食のがん治療における有効性・安全性を考察するための臨床研究が始まっています。

 

学会での論文発表

 

肺癌患者におけるケトン食の有用性と安全性についての検討

         ~大阪大学 萩原圭祐助教授らによる発表~(2015年10月日本癌治療学会)

             (肺がんステージ4 非小細胞性肺悪性腫瘍 経口摂取可能な方を対象)

ステージ4進行再発大腸がん、乳がんに対しタンパク質とEPAを強化した糖質制限食によるQOL改善に関する研究

         ~多摩南部地域病院 古川健司らによる発表(2016年10月日本病態栄養学会)

ステージ4進行再発大腸がん、乳がんに対する修正MCTケトン食による安全性と有効性の評価

         ~多摩南部地域病院 古川健司らによる発表(2016年4月(日本静脈経腸栄養学会)~

 

 

研究では抗腫瘍効果はケトン体濃度に相関を示しており、ケトン体の抗腫瘍効果を示す結果が一様に得られたことから、さらに研究が進められています。

 

がんのケトン食ってどんな食事?

ケトン食は、総カロリーに対する脂質の割合が、75~85%とかなり高い食事です。糖質は5%以下(1食5g以下)とかなり厳しいもので、当然ながら私達が食べ慣れているごはんやパン、麺などは一切摂取できません。

調味料や、野菜のわずかな糖質も考慮し、メニューを構成する必要があります。1食のうち、糖質で摂取するカロリーは25kcalが限界なです。1食が600kcalとしたら、そのうちなんと、450~510kcalは脂質でカロリーを摂取しないといけない計算になります。

 

全く想像がつかないかもしれませんが、イメージとしては、「おかずだけの食事に油をドバドバかける」というのが一番近いかもしれません。

 

全く美味しそうな感じがしない、と思われる方が結構多いのですが、工夫すれば、今まで食べていた食事に近い見た目や触感を味わうこともできるようになりました。

 

てんかんのケトン食と、がんのケトン食は同じものではありません。1番違うのは、1食におけるタンパク質の摂取割合が違うという点でしょうか。てんかんのケトン食は、てんかん発作を抑制するためケトン体をかなり高めで維持することが必要なことから、脂質の摂取割合を強化し、タンパク質はその分絞っていて、低タンパク食となります。

 

ここで、ケトン比という言葉の理解が必要になります。ケトン比とは 脂肪:非脂肪(炭水化物+タンパク質)の割合のことです。てんかんのケトン食は、3:1、もしくは4:1となるように、調整をします。

 

がんのケトン食の場合、免疫力を上げるためにタンパク質はどうしても重要になってくることから、ケトン比(脂肪:非脂肪)は1.5:1に設定されています。

 

私にもできる?

多くの方にとって、ケトン食は未知の食事療法なので、説明を聞けば聞くほど「できる気がしない」と思う方が多いのではないかと思います。数年前までは、ケトン食のレシピを検索してもてんかんのケトン食しか表示されず、本も同じ状況で、探せど探せど、てんかんのケトン食のレシピ集しかありませんでした。

 

しかし、2016年にやっとがんのケトン食のレシピ本が1冊、2017年にちがう著者で1冊、発刊されました。まずはこのレシピ本を参考に、実際に作ってみて、がんのケトン食がどんなものなのか体験してみるといいと思います。

 

レシピはどれも美味しそうだし、意外に自分でも作れそうだと感じるはずです。

でも結局のところ、重要なのは、できるかできないかではなく、やるかやらないか(覚悟の問題なのだと思います。

 

本当に効果があるの?

ネットを検索すると「がんの栄養源はブドウ糖だけ。断糖すればがんは兵糧攻めと同じ状態になり、がんは死ぬ!」などといった記事が多く出てくると思います。しかし残念ながら、実際には、がんはそんなに生やさしいものではありません。

 

糖質を控えるだけでなく、脂質を積極的に摂ること、タンパク質を摂りすぎないことはとても重要な要素です。食べて治す治療になるので、経口摂取ができることは大きな条件の1つになります。また、総カロリーも控える必要があるため、「満腹」という幸せを我慢することも必要になってきます。

 

ケトン体を上げる為に摂取する脂質もバターや生クリーム、ラードなどはなるべく控えたほうが良いし、サラダ油や加熱した油、酸化した油は避ける必要があります。

 

更には加工食品や食品添加物も避ける、食物繊維を十分に摂取するといったことも必要になってきます。

 

総じて、知識量が成果に大きく関わってくるので、簡単に「誰にでも効果がある」とは断言できないし、一定期間(3か月)は集中してストイックに取り組む必要があります。

 

実際に、ネットの情報などでケトン食をしてみた方はほとんど継続できずにすぐにやめてしまうか、不十分な知識で行ってしまい体重や筋肉量が減って、主治医に止められる方がほとんどです。

 

「がんを殺す」ほどの威力のある食事法が、なんの副作用や危険性もないということはまずありえません。これが、医師や専門の栄養士に指導を受けながら注意深く進めてくださいと注釈がある理由で、前項で「意外にできる」といったことと矛盾するかもしれませんが、軽い気持ちで中途半端に手を出せるようなものではない、ということもきちんとお伝えしないといけないと思います。

 

危険じゃないの?

前述のとおり、食事は毎日、毎食のことなのでがんのケトン食は誰もができるような易しいものではありませんが、しっかりと学び、忠実に実践すれば、体重減少は−5%以内に収まることが多く、筋肉量も極端に減るようなことはありません。

 

治療ですので、栄養療法をよく理解してくださる医師に定期的にかかり、血液検査や画像検査などと一緒に定期的に、総合的に評価していくことがリスクを減らす最大のポイントです。

 

繰り返しますが、ネットだけの中途半端な知識でケトン食に取り組むことは危険です。ケトン食を開始して、体重が減り続けたりデータが増悪してくるようなら、早めに通常の食事に戻したほうが良い場合もあります。

 

まだあまり症例は多くはありませんが、がんのケトン食治療に取り組まれている多摩南部地域病院では、末期がん患者さんでも病勢コントロール率83%という驚異的な数値をたたき出しており、かつ、今までの治療にない、QOLの維持、向上が認められています。

 

私が実際にチャレンジされた方を見ても、しっかりと自発的に学ばれ、実践されている方はしっかり結果を出せており、完治とはいかないまでも、増悪パターンになるまでの期間は確実に延長できています。

 

下痢や嘔吐などの副作用は多少はあっても、抗がん剤や放射線の副作用を考えると、比べ物になりません。

しかしもちろん、継続できず、途中で諦められた方、経口摂取が厳しくなり、炎症に歯止めをかけることができず腹水が定期的に溜まって結果的に亡くなられた方もいます。

 

サポート体制や環境、開始するタイミングも重要な要素だと思います。ケトン食だけをとってみて、「危険だ」と声を大にして言われる先生もいらっしゃいますが、抗がん剤や放射線治療などの標準治療も、高いリスクがあるのは同じです。

 

確実に言えるのは、治療を選択するのは患者さんです。

 

ケトン食は、患者さんや家族が能動的に治療に参加しているという充実感を持たれている点、これといった長期にわたる副作用がない点、入院せずとも普段と同じような生活ができている点は素晴らしいと感じますし、今までの標準治療では1回も感じたことのない、大きなインパクト、がん治療の発展の可能性を感じます。

 

どんなデメリットがありますか?

<下痢・嘔気>

脂質を非常に多く摂取する食事ですので、初期は特に下痢をすることが多いです。胆汁酸の働きが弱い方では胃もたれや嘔気を感じることがあります。タンパク質と一緒に摂取する事や、大豆レシチンなどのサプリで脂質を乳化することで、下痢や嘔吐は予防できます。

 

<外食できない(総菜や弁当も含め>

できないこともないのですが、食べられるものは非常に限られているので、外食の選択肢はかなり狭められます。外食は、トランス脂肪酸や炎症を増悪させるリノール酸などが多く含まれ、たまの楽しみであればよいとしても頻回になってくると、期待する効果が得られないことがあります。

 

<食費がかかる>

肉や魚もですが、よい油(MCTオイルやエクストラバージンココナッツオイル、アマニ油など)はわかりやすく価格が高いです。しかも、油は大量に消費するので経済的な負担が大きくなります。今までの3倍は食費がかかるかもしれません。

 

<計算が面倒>

体重や身長、運動量なども考慮して1日のカロリー、1食のカロリーを計算し、糖質、脂質、タンパク質の量を細かく計算することがはじめは必要です。1回きちんと計算してレシピを完成させれば、レシピをストックして、それをローテーションすればいいので、さほど面倒ではないのですが、毎回、スプーンで計量したりする手間はあります。

 


検査について

ケトン食でのがん治療では、がんの活性度を示すPET-CTや、血液検査、尿検査を定期的に行いながら、評価をする必要があります。

治療について

ミトコンドリア活性化&酸化ストレス攻撃によりがん細胞を自滅に導きます。点滴、内服、ハイパーサーミア、免疫療法など、選べる治療はたくさんあります。

ケトン食について

がん細胞が苦手なケトン体を多く産生する食事治療です。ケトン体の抗がん作用、強力な抗酸化作用で脂質代謝を主体に回し、代謝を正常化させます。